Messariレポート：Filecoin 2025年第3四半期の状況調査

原文タイトル：State of Filecoin Q3 2025

原文作者：Armita，Messari

原文翻訳：Filecoin Network

主要なインサイト

・ネットワーク利用率は36%に上昇（第2四半期は32%）、一方でネットワーク全体の総ストレージ容量は前四半期比10%減の3.0 EiBとなりました。これはネットワークv27「ゴールデンウィーク」アップグレード後、一部のSPが退出し、ネットワーク効率が向上したことを反映しています。

・ネットワーク総手数料は前四半期比14%増の793,000ドルとなり、増加はほぼ全てペナルティ（99.5%）によるものです。旧セクター（legacy sector）方式の廃止により、バッチ手数料（batch fees）およびベース手数料（base fees）はほぼゼロになりました。

・アクティブなストレージ需要は安定しており、総ストレージデータ量は前四半期比1%減の1,110 PiBとなりました。ストレージプロバイダーやアロケーター（allocator）が新しいFil+パスや運用調整に適応しているため、1日あたりの新規取引量は19%減少しました。

・オンラインの実データセット数は前四半期比3%増の2,491件となり、そのうち925件は1,000TiBを超える規模です。これは企業や研究機関による大規模かつ永続的なストレージの採用が継続的に増加していることを示しています。

・Filecoin FoundationはGSR Foundationと共同でインパクトプロジェクトグループに資金提供し、The Starling LabやCROSSLUCIDのOceanic Whispersプロジェクトなどが含まれています。これにより、Filecoinが検証可能で社会主導のデータ保存分野で重要な役割を果たしていることがさらに強調されました。

プロジェクト概要

Filecoin（FIL）はデータサービスのための分散型マーケットプレイスの構築を目指しており、その最初のコアサービスはIPFS（InterPlanetary File System）ベースのデータストレージです。Filecoinは市場駆動型モデルを採用しており、ユーザーはストレージプロバイダーと価格交渉を行い、可変価格のストレージ取引を行うことができます。ストレージ取引はサービス契約に類似しており、ユーザーは一定期間データを保存するためにプロバイダーに支払いを行います。

Filecoinは暗号学的証明に基づくインセンティブモデル——すなわちProof of Replication（PoRep）およびProof of Spacetime（PoSt）——を用いて、ストレージプロバイダーがプロトコル期間中に顧客データを確実に保存していることを検証します。さらに、Proof of Data Possession（PoDP）¹は2025年5月に導入され、保存済みデータに対して継続的な軽量検証を追加し、高速なデータ可用性のためのホットストレージレイヤーを提供します。プロバイダーはストレージ取引への参加を通じてネットワークネイティブトークンFILを報酬として獲得します。ストレージプロバイダーが信頼できるオンライン稼働時間を提供できなかったり、ネットワークに悪意ある行為をした場合、そのステークされたFILはスラッシュ（没収）されます。

データ取得に関しては、Filecoinユーザーは取得プロバイダーにデータ取得のための支払いを行います。オンチェーンで行われるストレージ取引とは異なり、取得取引はペイメントチャネルを用いてオフチェーンで決済され、より高速な取得を実現します。ストレージと取得に加え、Filecoinは計算リソースをデータ上で直接呼び出せるオープンマーケットの提供も目指しており、従来の中央集権型システムに対してより効率的な代替案を提供します。「データ計算（compute-over-data）」サービスを実現するための主要なプロトコルアップグレードには、スマートコントラクト（Filecoin Virtual Machine - FVM）およびスケーリングソリューション（InterPlanetary Consensus - IPC）が含まれます。今後リリース予定のFilecoin Onchain Cloudにより、ネットワークのインフラはさらに拡張され、完全なオンチェーンクラウドサービスをサポートします。

主要指標

パフォーマンス分析

Filecoinの主な用途は、2つの参加者による分散型データストレージの実現です：

・需要側、すなわちデータストレージを必要とするストレージユーザー。

・供給側、すなわち遊休ストレージ容量を持つストレージプロバイダー。

Filecoinストレージ需要の指標は、ユーザーとストレージプロバイダー間の有効なストレージ取引におけるデータ総量です。

ストレージ取引

2025年第3四半期、Filecoin上のアクティブ取引によるストレージデータ総量は1,110PiBに達し、第2四半期の1,120PiBからわずか1%減少しました。これはオンチェーンストレージ需要が全体として安定していることを示しています。アクティブ取引の平均件数は1%減の3,520万件となりました。ネットワーク総容量が継続的に減少しているにもかかわらず、データ量のわずかな減少は、Filecoinが最大限の生ストレージ供給から、より高価値で企業レベルかつ検証済みのデータワークロードをサポートする方向へと転換していることを浮き彫りにしています。

2025年第3四半期、Filecoinの日次新規ストレージ取引量は前四半期比19%減の3.4PiBから2.8PiBに減少しました。この傾向は前四半期の増加傾向とは逆であり、新規データのオンボーディング活動がやや冷え込んだことを反映していますが、総アクティブストレージ量はほぼ安定（1,120PiBから1,110PiBへわずかに減少）しています。この乖離は、新規データのオンボーディング速度が鈍化した一方で、既存の検証済みデータセットが安定していることを示しています。

2025年第2四半期末に導入されたFilecoin Plus（Fil+）アロケーターパス（Allocator Pathways）は、大規模な検証済みデータ顧客を優先し、企業ユーザーのオンボーディングプロセスを簡素化しました。これにより取引件数は減少しましたが、1件あたりの取引価値は高くなっています。現在、検証済みストレージがネットワーク全体の活動で主導的な地位を占めており、規模が小さく期間の短い通常取引はほぼ消滅しています。同時に、ネットワークv27「ゴールデンウィーク」アップグレードによりSPの運用が簡素化され、いくつかの旧式のパッケージングやアグリゲーション方式が廃止されました。これにより新規取引の減少が一時的に発生し、ストレージプロバイダーは新しいツールセットへの適応が必要となりました。マイナーの統合ももう一つの要因であり、多くの小規模オペレーターがより厳しい効率基準や増加するステーキング要件のもとで退出を選択しています。

新規取引量が短期的に減少したものの、既存の検証済みデータセットが依然として活発であるため、全体の利用率は向上しました。これらのデータセットは特に、第3四半期に開始された「文化・科学保存プログラム」などのプロジェクトを通じて導入された長期アーカイブ、研究、企業ユースケースと関連しています。

ユーティリティ VS. キャパシティ

2025年第3四半期、Filecoinのストレージ利用率は第2四半期の32%から36%に上昇しましたが、同期間のネットワーク総コミット容量は前四半期比10%減の3.3EiBから3.0EiBに減少しました。この逆方向のトレンドは、ネットワークで進行中のSP統合と規模の適正化（right-sizing）を反映しています。総容量の減少は主に、ネットワークv27「ゴールデンウィーク」アップグレードでより厳格な運用・ステーキング要件が導入された後、一部の小規模またはパフォーマンスの低いストレージプロバイダーがネットワークから退出したことに起因します。このアップグレードはFIP-0101、FIP-0103、FIP-0106などの提案を通じてセクターパッケージングやメンテナンスプロセスを簡素化し、古く非効率なワークフローを廃止し、一部のSPが時代遅れのインフラを淘汰することを促しました。一方で、日次新規取引オンボーディング量は前四半期比19%減となり、新規データの流入が減少しました。そのため、ネットワーク総容量が縮小したにもかかわらず、残存ストレージスペースがより効率的に活用され、ネットワーク規模が小さくなった中で利用率が上昇しました。

顧客

Filecoinは現在、主に企業や開発者向けにコールドストレージ（cold storage）ソリューション（例：データアーカイブやリカバリー）を提供しています。低価格なストレージは、大量のアーカイブデータに対してコストパフォーマンスの高い代替案を求める従来型企業の誘致に役立っています。

DeStorはFilecoinのサービスプロバイダーであり、顧客とストレージプロバイダーをつなぐ役割を果たしています。同社はQamcom Decentralized Data Security（DDS）と提携しています。潜在的なデータ顧客には、50万人以上のユーザーを持つWeb3ゲームスタジオYayPalや、AIマーケティング分析プラットフォームFieldstreamが含まれます。他のクライアントソリューションの例は以下の通りです：

・GhostDrive：暗号化、分散化、革新的なストレージ最適化技術によってプライバシーとセキュリティの向上に特化；

・CIDGravity：Nextcloudなどのオープンプラットフォームとのエンタープライズ統合に特化。

コールドストレージ以外にも、Lighthouse、Akave、Storachaなどのプロジェクトが他のストレージソリューションの開発を推進しています。

2025年第3四半期末時点で、Filecoin上には2,491件のオンライン実データセットがホスティングされており、第2四半期の2,416件から3%増加しました。そのうち925件は1,000TiBを超える規模で、第2四半期の864件から7%増加しています。これは大容量かつ永続的なストレージの市場採用が継続的に拡大していることを強調しています。この成長は、継続的なFilecoin Plusオンボーディング活動、新たなオンランプ統合（on-ramp integrations）ソリューション（データセットの導入障壁を低減）、および企業・研究ワークロードの増加によるものです。

FVMの発展動向

Filecoin Virtual Machine（FVM）は、開発者がFilecoinのストレージレイヤー上にEthereumライクなスマートコントラクトを直接デプロイできるようにし、データのオンボーディング、価格設定、取得、計算コーディネーションなどのプロセスを自動化するアプリケーションの構築を可能にします。

2025年第3四半期、Filecoinの総流入額（純入金）は6,240万ドルで、第2四半期の6,680万ドルから6.5%減少しました。同期間の総流出額および貸付額も6.8%減少し、4,340万ドルから4,050万ドルとなりました。

しかし、FIL建てで計測した場合、トークン活動は逆の傾向を示しています：流入量は前四半期比0.16%増の2,539万FILから2,543万FILへ、流出量は0.03%減の1,653万FILから1,652万FILへと微減しました。この差異は、今四半期FIL価格が5%下落（2.30ドルから2.19ドルへ）したことにより、本来安定しているオンチェーントークンフローのドル建て価値が減少したためです。

財務概要

Filecoinの収益モデルはEthereumと類似しており、EIP-1559に着想を得たGasメカニズムを採用しています。つまり、ネットワーク手数料の一部がバーン（burned）され、ネットワーク混雑を調整します。しかしEthereumと異なり、Filecoinの経済モデルはストレージ駆動型であり、ストレージユーザーが手数料を支払い、ストレージプロバイダーはステーキングとペナルティを管理しつつ収益を得ます。

ネットワーク手数料

Messariの収益分析によると、Filecoinの手数料構成は以下の通りです：

・ベース手数料（Base Fees）：ブロックスペースの混雑度によって決まり、あらゆるストレージ証明に必要な手数料。

・バッチ手数料（Batch Fees）：複数のストレージ証明をバンドルしてコストを最適化するための手数料。

・過剰見積もり手数料（Overestimation Fees）：Gas使用の最適化のために支払う手数料。

・ペナルティ（Penalty Fees）：ストレージプロバイダーの障害や違反行為に対して課される手数料。

2025年第3四半期、Filecoinのネットワーク総手数料は792,900ドルとなり、2025年第2四半期の693,600ドルから前四半期比14.3%増加しました。この増加はほぼ全てペナルティによるものであり、ベース手数料およびバッチ関連手数料はネットワークv27アップグレードによるプロトコル層の変更後、ほぼ消滅しました。

・ベース手数料：前四半期比97%減の4,100ドル。これは複数のセクター関連メソッド（FIP-0103、FIP-0106、FIP-0101）が廃止されたことによるオンチェーントランザクションスループットの減少を反映しており、ネットワーク需要の減少ではありません。

・バッチ手数料：前四半期比100%減の0ドル。これはセクターオンボーディング活動の減少およびアクティブストレージ総量の継続的な減少傾向と一致し、SPによるバッチプリコミット取引の大幅減少をもたらしました。

・過剰見積もり手数料：前四半期比98%減のわずか157ドル（前四半期は6,400ドル）、これは全体の取引頻度減少に伴い、Gas関連活動も減少したことを反映しています。

・ペナルティ：前四半期比53%増の788,600ドルで、ネットワーク総手数料の約99.5%を占めます。この急増は、ネットワーク再編やより厳格な運用要件下でのマイナー退出期間におけるスラッシュ（slashing）イベントの増加を反映している可能性があります。

第3四半期はFilecoin経済モデルの移行期であり、ネットワークはv27バージョン下で運用プロセスを簡素化しました。バッチ手数料とベース手数料の減少は、ネットワークが高取引量・短サイクルのオンボーディングモデルから、件数は少ないが規模の大きい検証済み取引へと移行していることを反映しています。一方でペナルティの急増は、品質基準の引き上げが小規模プロバイダーに運用圧力を与えていることを浮き彫りにしています。これらの傾向は、ネットワークが統合期を迎え、拡大による手数料活動は減少する一方で、既存参加者の実行力と効率が向上していることを示しています。

時価総額

2025年第3四半期、FILの流通時価総額（circulating market cap）はドル建てで前四半期比3%減の1.5billionsドルとなり、2025年第2四半期の1.6billionsドルを下回りました。この減少は主にFILトークン価格が前四半期比5%下落（2.30ドルから2.19ドルへ）したことによるもので、同期間の流通供給量は前四半期比2.2%増の6億9,240万FILとなり、従来の発行ペースと一致しています。

DeFiエコシステム

2025年第3四半期、FILの総ステーキング量は前四半期比0.4%減の1億2,760万FILから1億2,700万FILに減少し、5四半期連続で減少しています。ドル建てでは、ステーキング総価値は5.4%減の2億7,790万ドルとなり、これは今四半期のFIL価格5%下落によるものであり、ステーキング参加度の大きな変化によるものではありません。

適格供給量に対するステーキング率は17%で第2四半期と同水準ですが、2025年第1四半期の19%よりは低下しています。これはネットワーク参加度が安定しているものの、比較的低いことを反映しています。一方で年率名目利回りは52%から24%へ大幅に低下しました。これは第2四半期にステーキング参加度の低下とインフレ主導の報酬支給によって短期的に利回りが急騰した後、ステーキング活動が安定したことで正常水準に戻ったためです。

TVLトレンド

2025年第3四半期、FilecoinのDeFi活動は引き続き縮小し、2024年初頭から続く下降トレンドが継続しています。四半期末のDeFi総ロックバリュー（TVL）は前四半期比8.4%減の2,700万ドルとなり、第2四半期の2,940万ドルを下回り、5四半期連続で減少しています。FIL建てで計測した場合、TVLの減少幅はより穏やかで、前四半期比3.6%減の1,230万FILとなり、価値減少の大部分はFIL価格5%下落によるものであり、実質的な資本流出ではありません。

リキッドステーキング（Liquid staking）のTVLも同様の傾向を示し、前四半期比7.1%減の1億570万ドルとなりました。これは第2四半期の利回り急騰後、ステーキング報酬が正常水準に戻り、ネットワークインセンティブも徐々に弱まったためです。FIL建てで見ると、コアのリキッド製品とステーキング参加度は安定しており、ユーザーのドル建て指標が減少しても、ユーザー参加度とネットワーク参加度は健全に保たれています。

ステーブルコイン

USDFCはSecured Financeが2025年初頭にローンチしたFIL担保型ステーブルコインです。FILを担保として利用し、FILの売却圧力を軽減することで、Filecoin経済圏内の流動性を高めることを目的としています。これは取引、レンディング、DeFiアプリケーションに対して、Filecoinネットワークを離れることなく利用できるネイティブなドルペッグ資産を提供します。

2025年第3四半期、USDFCの流通供給量は前四半期比8.5%減の30.1万ドルから9月30日時点で27.5万ドルとなり、ローンチ以来初の縮小となりました。8月中旬に約35.5万ドルのピークに達した後、DeFi活動や利回り機会の冷え込みに伴い、9月全体で流通供給量は緩やかに減少しました。

この後退は市場要因によるものであり、構造的な問題ではありません。FIL価格5%下落により新規発行担保の価値が減少し、ステーキングやDeFi利回りも第2四半期の52%という短期的ピークから24%の正常水準に戻ったことで、流動性プロバイダーや借り手のミントインセンティブが低下しました。ネットワークv27「ゴールデンウィーク」アップグレード後、参加者がプロトコルの安定性を優先したことも、より広範なオンチェーン流動性の減少につながりました。

このような緩やかな縮小が見られたものの、USDFCは完全なペッグ安定性と健全な流通状態を維持しており、ストレージプロバイダーやDeFi参加者の信頼は安定しています。この縮小は弱さの兆候ではなく、第2四半期の急速な拡大後の自然なコンソリデーションフェーズ（consolidation phase）であり、2025年にFIL建て市場やFVMベースの統合ソリューションが成熟することで、より堅実な成長の基盤を築いています。

定性的分析

プロトコルアップグレード

ネットワークv27アップグレード（コードネーム：「ゴールデンウィーク」）：Filecoinネットワークv27アップグレード（コードネーム：「ゴールデンウィーク」）は2025年9月24日、ブロック高5,348,280で無事にデプロイされ、翌日（9月25日）に正式完了が宣言されました。本バージョンはストレージプロバイダー（SP）の運用簡素化、EVM互換性の向上、技術的負債の削減に注力しています。

実装された主なFilecoin改善提案（FIPs）は以下の通りです：

・FIP-0105：Filecoin EVMにBLS12-381プリコンパイルコントラクト（EIP-2537相当）を導入し、効率的なBLS署名検証をサポート、EthereumベースのRollupソリューションとのクロスチェーン相互運用性を実現。

・FIP-0077：新規作成されたストレージプロバイダー（SP）IDにデポジット要件を導入し、その金額は10TiBストレージ容量初期ステーク額の10%（現行レートで約4FIL）に相当。スパムアカウント作成の抑制とネットワーク状態効率の向上を目的としています。

・FIP-0103 / FIP-0106 / FIP-0101：廃止されたメソッド（「セクターライフサイクル延長」「レプリカ更新証明」「証明アグリゲートコミット」など）を削除し、SP Actorのロジックとメンテナンス作業を簡素化。

・FIP-0109：ダイレクトデータオンボーディング（DDO）機能にスマートコントラクト通知を有効化し、オンチェーンアプリがストレージイベントをサブスクライブし、プログラム的にワークフローをトリガーできるように。

・FRC-0108：スナップショットフォーマットを拡張し、ファストファイナリティ（Fast Finality, F3）証明書を含めることで、新規参加者のノード同期時間と帯域幅要件を削減。

全ての主要クライアント実装（Lotus、Venus、Forest、Curio、Boost）はアップグレード有効化前に互換バージョンをリリースしました。今回のアップグレードは開発者ツールを強化し、Filecoin Virtual MachineをEthereum標準に合わせ、プログラマブルなデータサービスと取得市場の基盤を築きました。

Filecoin上の文化・科学データストレージ

2025年9月30日、Filecoin Foundationは新たなパートナーを発表し、Filecoinネットワーク上で文化・科学アーカイブを保存します。本プログラムは複数の著名機関との初期協力に基づいており、Filecoinが分散型物理インフラネットワーク（DePIN）として、永続的・検証可能・検閲耐性のデータストレージ分野でますます重要な役割を果たしていることを強調しています。Filecoin上で保存された新たなデータセットは以下の通りです：

・米国デジタル公共図書館（DPLA）：5,000万点を超える文化コレクションの中から選ばれた資料（写真、口述歴史、政府文書など）を保存するパイロットプロジェクト。

・地球種プロジェクト（ESP）：BEANS-Zeroベンチマークデータセットを保存。これはNatureLM-audio（動物発声用音声言語モデル）のトレーニングに使用され、世界中の研究者がこれらのデータに柔軟にアクセスできるようにします。

・プレリンガーアーカイブ（Prelinger Archives）：米国の社会・文化史を記録した数万本のアーカイブ映画、Rick Prelingerの「失われた風景」シリーズなどを含む。

・ロヒンギャプロジェクト（Rohingya Project）：無国籍のロヒンギャコミュニティの文化的アイデンティティや口述歴史を保存するコミュニティ主導のアーカイブ。

・CROSSLUCIDの「Oceanic Whispers」：RadicalxChangeと部分的に共同開発された実験的データトラストで、海洋保護区のデータセットをFilecoin上に保存し、AI生成の部分所有収益モデル付きインタラクティブ体験へと変換。

これらの協力は、分散型ストレージが検証可能かつ改ざん耐性のアーカイブ手法を通じて、オープンサイエンスや文化保護をどのように支援できるかを示しています。

エコシステム統合と協力

Filecoin FoundationとGSR Foundationインパクトプロジェクトグループ（Impact Cohort）：2025年7月23日、Filecoin FoundationはGSR Foundationと提携し、「インパクトプロジェクトグループ」を共同で立ち上げました。これはFilecoinエコシステム内の5つのブロックチェーンベース公益プロジェクトを支援する共同イニシアチブです。GSR Foundationはデジタル資産マーケットメイカーGSRの慈善部門であり、Filecoin Foundationと協力してThe Starling Lab for Data Integrity、Easier Data Initiative、Transfer Data Trust、Akashic、CROSSLUCIDの「Oceanic Whispers」に資金提供しました。各プロジェクトは分散型ストレージをデジタル真実保存、地理空間データアクセス、アートガバナンス、環境管理など社会的インパクト分野に応用しています。この協力は、Filecoinが社会的インパクトや実世界アプリケーションを支えるコア技術インフラとして重要な役割を果たしていることを示しています。

Akave CloudによるS3互換オブジェクトストレージの実現：2025年9月16日、AkaveはFilecoin対応・S3プロトコル互換のオブジェクトストレージサービスを発表しました。これは企業やDePINユースケース向けに設計されています。この統合により、開発者や組織は標準的なS3 APIを使ってデータを保存・アクセスでき、Filecoinの検証可能なストレージと取得保証の恩恵を受けられます。Akaveのリリースは、従来型クラウドツールと分散型インフラを接続し、企業のブロックチェーンストレージ移行を簡素化し、Proof of Data Possession（PDP）をサポートすることで、検証可能かつ低遅延な「ウォーム」データユースケースを実現します。

StorachaのBlueskyバックアップアプリ：StorachaはFilecoinとIPFS上に構築された分散型ホットストレージネットワークで、2025年6月12日にbsky.storageをリリースし、第3四半期も採用が拡大しました。これはユーザー向けアプリで、Blueskyソーシャルデータを毎時自動バックアップします。このツールにより、ユーザーは自身の投稿やIDキーを独立してエクスポート・復元でき、Filecoinがデータポータビリティ、ユーザー所有権、自己主権型デジタルIDの実現を目指すビジョンをさらに強化しました。

開発者プログラムとコミュニティ成長

第7回Filecoin Developer Summit（FDS-7）：2025年9月に発表され、第7回Filecoin Developer Summitは10月16-17日にオンライン開催、11月13-15日にDevConnectアルゼンチン期間中ブエノスアイレスでオフライン開催されます。本サミットはFilecoinの拡張による企業・データ集約型アプリ対応や、ネットワークv27の進展（ダイレクトデータオンボーディング、BLSプリコンパイルコントラクト、ファストファイナリティスナップショット、新しい取得市場やAIデータワークフローなど）を探ります。

Filecoin Onchain Cloud（Alphaプロジェクトグループ）：2025年8月12日、FIL-BuildersとFilOzはオンチェーンクラウドAlphaプロジェクトグループ（Onchain Cloud Alpha Cohort）を開始しました。本プログラムはオンチェーン決済、ウォームストレージ、標準化取得インターフェース、スマートコントラクトベースのサービスレベルアグリーメント（SLA）などのモジュールを導入し、開発者がスマートコントラクトのように分散型データサービスを簡単にデプロイできるようにします。

PL Genesisハッカソン –「Filecoinを活用した主権データレイヤーの突破」：Protocol Labs主催の「モジュラー・ワールド」シリーズの一環として、6月初旬から2025年7月6日まで開催されました。開発者はFilecoinのオンチェーン技術スタックを活用し、分散型データ所有権や取得の実験、プログラマブルストレージや検証可能なデータアクセスの新アプリケーションを探求しました。2025年9月5日に発表された受賞プロジェクトは、スマートコントラクトベースの取得ロジック、検証可能なAIデータセット、データDAO（Data DAOs）向け開発者ツールなどのイノベーションを披露しました。本ハッカソンの総賞金は15,000ドルで、Filecoinの進化するオンチェーンクラウドエコシステムにおける開発者の参加を強化しました。

Orbit Programとコミュニティ活動：2025年9月、FIL BuildersのOrbit Programは一連のコミュニティワークショップやハッカソンを通じて世界中の開発者リーチを拡大しました。主なイベントにはFIL Warsaw（9月5日）、ETHAccra（9月4-6日、AIおよびDeFiバウンティチャレンジあり）、プネ（9月12日）とデリー（9月25日）のCode & Corgiワークショップ、日本でPacific Metaと共催したDecentralized Storage 101（9月18日）などがあります。これらの会議はFilecoin Virtual Machine（FEVM）、データオンボーディングツール、コミュニティ主導のオープンソース開発に関する開発者教育に焦点を当てました。

主要なガバナンスの進展

ProPGFバッチ1：2025年8月11日、Protocol Labsは最初のFilecoin公共財助成（ProPGF）を完了し、14のエコシステムプロジェクトに368万ドルを配分しました。これにはIPNI、CID Gravity Gateway、Curio Storage、Fil Ponto、FilCDN Retrieval Servicesが含まれます。本プログラムはFilecoinのコアエコシステムと長期的持続可能性を強化する先進的インフラや開発者プログラムを支援します。

RetroPGF第3ラウンド：2025年8月25日、レトロスペクティブ公共財助成（RetroPGF）第3ラウンドが開始され、58.5万FILがエコシステム全体で検証可能なインパクトをもたらした貢献者に追跡的に助成されます。本ラウンドはOptimismスタイルの公共財助成モデルを採用し、インフラ、ツール、研究、クライアントオンボーディング分野でのオープンソース貢献を報奨し、Filecoinの持続可能かつインパクト主導のエコ成長へのコミットメントを強化しました。

Filecoin Plus（Fil+）アロケーターパス：2025年9月時点で、Fil+ガバナンスチームは140件以上のアロケーター申請を審査し、承認率は約75%、450PiB超のDataCap（データクォータ）を配布しました。新たなメタアロケーターパス（meta-allocator path）が導入され、企業オンボーディングプロセスや自動配分ツールが簡素化されました。8月・9月の定期ガバナンスコールや録音公開により、プログラム内の透明性・説明責任・運用効率が向上しました。

まとめ

2025年第3四半期、Filecoinの流通時価総額は前四半期比3%減の1.5billionsドルとなり、主にFIL価格が5%下落し2.19ドルとなったことが影響しています。一方、流通供給量は2.2%増加しました。ネットワーク活動は安定しており、アクティブストレージ量は1%減の1,110PiB、SP統合により容量は10%縮小、ネットワーク利用率は32%から36%に上昇しました。

ネットワークv27「ゴールデンウィーク」アップグレードはストレージ運用を簡素化し、旧セクター方式を廃止、FVM互換性を強化しました。これにより新規取引の形成は一時的に鈍化しましたが、長期的な効率は向上しました。経済活動は正常化し、ネットワーク総手数料は前四半期比14%増の793,000ドルで、主にペナルティによるものです。ステーキング参加度は17%で維持され、利回りは52%から24%に低下しました。オンチェーン利回りの冷え込みに伴い、DeFi TVLは8%減の2,700万ドル、FIL担保型ステーブルコインUSDFCは8.5%減の27.5万ドルとなりました。

エコシステム面では、Filecoin Foundationが文化・科学保存活動を推進し、GSR Foundationと共同で助成プロジェクトグループを開始。AkaveとStorachaはネットワークの新アプリケーションを発表し、FIL-BuildersとFilOzはオンチェーンクラウドAlphaプロジェクトグループやPL Genesisハッカソンを通じて開発者プログラムを拡大しました。チームはFIL Dev Summit 7の開催も発表し、2025年11月にDevConnectアルゼンチン期間中ブエノスアイレスでFilecoinの検証可能・プログラマブルなデータインフラへの進化を披露します。

総じて、第3四半期はコンソリデーションフェーズ（consolidation phase）を反映しており、ネットワークはよりスリムで効率的になり、検証済みデータや企業ストレージに注力し、データ計算（compute-over-data）サービスの基盤を築いています。

原文リンク