執筆：深潮 TechFlow
前回のDePINナラティブで注目を集めたプロジェクトGrassを覚えていますか？
11月16日、GRASSは史上最安値の$0.26まで下落しました。しかし1週間後、トークンは45%以上反発し、同期間の市場平均を上回りました。
コミュニティでは、以前のGRASSトークン価格の激しい変動は、プロジェクト初のToken Holder Call（トークン保有者会議）への期待によるものだという声もあります。この会議で、運営側がより強力なファンダメンタルズ情報を明かすことを期待していたのです。
本日、GrassはこのToken Holder Callを開催しました。筆者が内容を聞いたところ、これはよくあるAMA（Ask Me Anything）というより、財務報告に近い情報開示でした。
Grassの収益データ、顧客構成、トークンの買戻し計画、エアドロップのタイムラインなど、すべてが初めて公開されました。
もしこの会議を見逃した方のために、会議動画と公式レビューをもとに、会議で明かされたデータや重要情報をまとめました。どのシグナルに注目すべきか判断する助けになれば幸いです。
会議のリプレイリンク： こちらをクリック
収益ゼロから1,000万ドル超まで、わずか3四半期？
Grassが初めて公開した収益データは以下の通りです：
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Q1 2025：ほぼゼロ
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Q2 2025：約275万ドル
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Q3 2025：約430万ドル
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Q4 2025（予測）：約1,280万ドル
公式によると、10月と11月の2か月間だけで、収益は1,000万ドルに達する見込みです。ただし、Q4のデータは現時点で予測値であり、実際の数値は今後検証されます。
Grassはどうやって稼ぐのか？
収益について語る前に、Grassのビジネスモデルを理解する必要があります。
Grassは分散型帯域ネットワークです。ユーザーがプラグインやアプリをインストールすると、Grassはユーザーの余剰ネットワーク帯域を利用して、公開ウェブページ上のコンテンツ（テキスト、画像、動画など）をクロールします。
リクエストが世界中の一般家庭のIPから発信されるため、ウェブサイト側からブロックされにくく、大規模なデータ収集を必要とする顧客にとっては非常に価値があります。
顧客は誰か？主にAI企業です。大規模モデルのトレーニングには膨大なデータが必要であり、Grassはそれらの素材を低コストで提供できます。簡単に言えば、Grassはユーザーから帯域を「借りて」、データ収集サービスとしてAI企業に販売し、その差額で利益を得ています。
収益源は？
会議では、収益の90%が「マルチモーダルデータ」（動画、音声、画像などの非テキストコンテンツの収集サービス）から、98%がAIモデルのトレーニング関連であると述べられました。
これはGrassの顧客層が非常に集中していることを示しています：ほぼすべてがAI企業で、購入しているのはトレーニング用素材です。
ビジネスの集中は一面で強みですが、逆にAIトレーニングデータ市場に変化があれば、Grassの収益も直接影響を受けることになります。
顧客について
Grassは顧客リストを公開していません。理由は、AI企業がトレーニングデータを企業秘密と見なしているためです。会議で明かされた情報は以下の通りです：
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Q4で新たに1社のhyperscaler（大手クラウドコンピューティング企業）および動画生成分野のトップラボと契約
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ほぼすべてのAI顧客がリピート購入している
ただし、これらの説明はすべて公式発表であり、外部からデータの真偽を検証することはほぼ不可能です。
トークン買戻し実施、ただし規模は小さい
会議で明かされたところによると、Grassは事業収益を使って公開市場でGRASSトークンを買い戻しています。先週は約10万ドル分、今週は約25万ドル分の買戻しを実施中です。
買戻し資金は今年の第1～第3四半期の収益から拠出されています。買戻しが実際に行われていることを証明するため、今後はこれらトークンを保管するウォレットアドレスも公開するとのことです。
現時点での買戻し総額は約35万ドル。Q2とQ3の合計収益約700万ドルと比べると、約5%に相当し、特に大きな金額とは言えず、むしろ姿勢を示すものと言えるでしょう。
今後は買戻しを手動からプログラム化へ移行する予定ですが、具体的なルールは示されていません。
ただし、買戻しが必ずしも価格上昇の万能薬ではないことに注意が必要です。HYPEやPUMPも買戻しや実収益があっても、トークン価格が一時的に大きく下落することはあり得ます。
公式は同時に2点を述べています：1つはトークンを買い戻すこと、もう1つは収益の大部分を成長に投資すること。この2つの配分比率は現時点で明確にされていません。買戻しがどれだけ続くか、規模が拡大できるかは、最終的に収益の伸び次第です。
第2回エアドロップ、来年前半に決定
Grassは昨年、初回エアドロップを実施し、早期参加者にGRASSトークンを配布しました。今回の会議で第2回エアドロップの時期が確認されました：
2026年前半。
受け取り方法が変更
初回エアドロップと異なり、Airdrop 2は外部ウォレットではなく、Grass公式が近日リリース予定の内蔵ウォレットを通じて配布されます。このウォレットはアカウントアブストラクション技術に基づき、Grassのプロダクト画面に組み込まれます。
つまり、今後はMetaMaskなどのサードパーティウォレットを接続せずとも、Grassの管理画面で直接受け取れるようになります。
ルールも変更
公式によれば、新しいエアドロップは「より長期的なネットワーク貢献」を重視するとのこと。ただし、貢献度の算出方法や、どれくらい稼働すれば長期と見なされるか、デバイスや行動ごとの重み付けなど、詳細は未発表で、ウォレットリリース後に明らかになる予定です。
既存ユーザーへの影響
現在Grassノードを稼働させている場合、今回の会議では明確なアクション指針は示されませんでした。唯一確定しているのは、ルールが変更されること、時期は来年前半であること、その際に新たな計算方式が導入されることです。現在のポイント、レベル、デバイス数が今後も重み付けされるかどうかは不明です。
現在の市場はベアマーケットであり、来年前半に全体の暗号資産状況が好転するかは不透明です。GRASSのエアドロップ計画時期も曖昧で、筆者としては現状のベアマーケットに対する時間稼ぎ的な側面もあると考えます。
MAUは300万から850万に増加、次はAIのリアルタイムデータソースを目指す
Grassのネットワーク規模は過去1年で大きく成長しました。公式データによると、月間アクティブ参加者は初回エアドロップ時の約300万人から現在は約850万人に増加。モバイルユーザーの割合は約38%で、3分の1以上がPCプラグインではなくモバイルアプリ経由で帯域を提供しています。
公式によれば、Grassが蓄積したマルチモーダルデータ（動画、音声、画像）の総量は250PBを超えています。1PBは約100万GBです。公式の説明では、この規模は「最先端の動画生成モデルをトレーニングするのに十分」とのことです。
新たな方向性：トレーニングデータ販売からリアルタイムクエリ提供へ
GrassはLive Context Retrieval（LCR）という新しいプロダクトラインを開発中です。直訳すると「リアルタイムコンテキスト検索」です。
既存事業はAI企業向けにトレーニング用データを一括で収集・販売するものですが、LCRはAIモデルの稼働中にリアルタイムでデータを提供することを目的としています。例えば、モデルが特定ウェブページの現在の内容を参照したい場合、Grassが即時にクロールして返すことができます。
現在LCRはまだ初期段階で、公式は「V0バージョン」と呼び、3社のSEO企業と1社のAIラボとテスト中です。
公式の説明では、トレーニングデータは高額だが取引頻度が低く、オンチェーン決済にはあまり向きません。LCRは高頻度・少額のユースケースで、各クエリごとに少額決済が発生し、トークン利用に適しています。
LCRが軌道に乗れば、GRASSトークンが実ビジネスでより多く活用される可能性があります。ただし、現時点ではまだ計画段階であり、LCR自体は収益を生んでいません。
また、今年リリース予定だったハードウェアデバイスGrasshopperは、関税によるサプライチェーン問題で延期となり、具体的な時期は後日発表されます。
公式議事録から削除された一言
会議でトークンの機能について話が及んだ際、Grass CEOのAndreは「Gigabuds have no utility」（Gigabudsには実用的な用途はない）と発言しました。
しかし、会議後に公式が公開した書面の議事録にはこの発言は記載されていませんでした。
Gigabudsとは
GigabudsはGrassがリリースしたNFTシリーズです。一部の保有者は、将来のエアドロップやネットワーク権益での優遇を期待していたかもしれませんが、今回の会議で公式はその期待を明確に否定しました。
フロアプライスの下落も、この発言への反応かもしれません。
なぜ公式議事録に記載されなかったのかについて、公式からの説明はありません。考えられる理由としては、NFT保有者のネガティブな感情を避けるため、あるいはコアビジネス情報ではないと判断したためでしょう。
この発言は確かに会議でなされており、字幕記録にも残っています。
もしGigabudsを「将来何かに使えるかも」と期待して購入したのであれば、この発言は公式の明確なスタンスです。NFT自体にコレクション価値や二次流通価値があるかは別問題ですが、機能的用途という道は公式に否定されました。
収益は財団へ、開発チームはサービス料を受け取る
多くの暗号プロジェクトでは企業構造が不透明で、収益が誰のものか、トークンの管理者は誰か、開発チームとプロジェクト運営の関係が分かりにくいものです。今回の会議で、Grassは自社の構造を比較的明確に説明しました。
3つの法人がそれぞれ役割を分担
Grass Foundationはケイマン諸島に登録された財団で、株主はいません。その下に2つの子会社があります：
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Grass OpCo：ネットワーク運営を担当し、エアドロップやステーキングを管理
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Grass DataCo：B2B事業を担当し、すべての顧客契約を締結し、収益もこの会社に入ります
開発チームは外部委託
プロダクト開発を担当するチームはWynd Labsで、Grassの子会社ではなく、サードパーティのサービスプロバイダーです。Wynd Labsはサービス料を受け取るのみで、Grassの収益分配には関与しません。
会議では特に強調されていた点として、たとえ顧客をWynd Labsが獲得した場合でも、契約はGrass DataCoが締結し、収益もGrass DataCoに帰属するとのことです。
サービス料の具体額は？
公式からは開示されていません。したがって、開発チームが実際にどれだけ受け取っているかは外部からは分かりません。
まとめ：
この会議では、収益データ、買戻しの進捗、エアドロップのタイムライン、プロダクトの方向性、企業構造について語られました。DePINプロジェクトとしては、これだけの情報密度は珍しいです。
一方で語られなかったこと：顧客の詳細、買戻しの今後の規模、Airdrop 2の具体的なルール、新規事業の収益化時期。これらについては、公式は「現時点では明かせない」または「今後発表」としています。
Grassがこのような会議を開くのは初めてで、今後も継続予定とのことです。トークン保有者にとっては、価格変動よりも、こうしたビジネス面での進展を追う方が重要かもしれません。
また、より多くの暗号プロジェクトがこのように自社の事業収益を公開することを期待します。競争が激しい市場の中で、これは非常に貴重な姿勢です。
