ディベースメント取引：投資家が弱まるドルから逃避

近月、法定通貨の価値減損（通貨の購買力が徐々に低下する現象）についての議論が、暗号資産市場を含む世界中の市場で再び注目を集めています。

中央銀行が利下げを示唆し、各国政府が財政赤字支出を拡大する中、投資家たちは再びグローバル金融の基軸であり、ほとんどのステーブルコインの基準でもある米ドルの実質的な価値に疑問を抱いています。

通貨の価値減損とは？

価値減損という用語はもともと、実際の価値を増やさずにより多くの通貨を発行するために、硬貨の貴金属含有量を減らす行為を指していました。

現在では、過度な通貨発行や政府の借入によってお金の購買力が希薄化する現象を指します。

政府が多額の借入を行い、中央銀行が経済成長を維持するために流動性を供給すると、同じ量の商品や資産に対してより多くのお金が追いかけることになり、インフレが発生し、時間の経過とともに通貨が弱くなります。

なぜ投資家はドルリスクについて語るのか

価値減損への関心が再燃しているのは、米連邦準備制度理事会（FRB）を中心とする主要中央銀行が、インフレ率が目標を上回っているにもかかわらず利下げの可能性を示唆しているためです。

一方、連邦財政赤字は拡大し続けており、政府はさらなる債務発行を余儀なくされ、実質的に債券市場を通じて支出をマネタイズしています。このような政策は、法定通貨が長期的な価値保存手段としての信頼を損なうことになります。 

ドルが弱くなることで、未払いの国債の実質的な負担が軽減され、政府の管理が容易になります。 

個人投資家にとっては、これが「価値減損トレード」へのシフトを促しています。簡単に言えば、法定通貨建て資産から、金やBitcoin、不動産といった希少で実物的な資産へと資本を移しているのです。

市場はドルの弱体化を示唆

価値を失っているのは米ドルだけではありません。ユーロや日本円など他の法定通貨も弱含んでいます。 

金に対して、これらの通貨で買える量は徐々に減少しています。エコノミストのFabian Wintersberger氏は、2025年9月にこれらの通貨の金に対する購買力が急激に低下したと指摘しています。

一方、金価格は歴史的な高値を記録し、10月中旬には1オンスあたり4,120ドルを突破しました。投資家が法定通貨の弱体化リスクを織り込んだ結果です。

2018年以降、株式と金はどちらもドル建てで上昇していますが、エコノミストのCharles Gave氏は、これは米ドルの価値減損による貨幣的錯覚（monetary illusion）だと主張しています。

資産自体の実質価値は増えていません。ドルが単に弱くなったことで、ポートフォリオが大きく見えるだけで、購買力はほとんど変わっていません。

「価値減損トレード」は何年も前から起きているが、ほとんどの投資家はまだ注目していないと、マーケットアナリストのPhil Rosen氏は述べています。 

彼によれば、ドル建てでは米国資産はピークに達していますが、金やBitcoin建てではその価値が大きく下落しています。

暗号資産市場もドル価値減損リスクに直面

主要なUSDCやUSDTを含むほとんどのステーブルコインが米ドルにペッグされている暗号資産市場も、ドル価値減損の影響を無視できません。

もし法定通貨が時間とともに価値を失えば、ステーブルコインの信頼の基盤、ひいては暗号資産経済全体が脆弱になります。

ドル価値減損が進めば、金担保型や分散型・過剰担保型ステーブルコイン（例：DAI）のような非USD安定資産へのシフトが徐々に進む可能性があります。これらは法定通貨準備ではなく暗号資産担保を利用しています。

同時に、Bitcoinのような希少な暗号資産の魅力は、法定通貨の価値下落から資産を守りたい投資家によって大幅に高まるでしょう。

なぜこれは重要なのか

法定通貨の弱体化は、投資家の実質的な資産、ステーブルコインの安定性、そして伝統的市場と暗号資産市場における資本配分全体に直接影響します。

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